「風邪を引いて、熱や喉の痛みは治ったのに、咳だけがいつまでも止まらない」 「市販の咳止めを飲んでも、一時的に収まるだけですぐぶり返す」
季節の変わり目や、風邪が流行る時期になると、このような悩みで来院される患者さんが急増します。
多くの人が「風邪が長引いているだけ」「気管支が弱っているのかな」と考えがちですが、実はその咳、風邪ではない別の病気かもしれません。
神戸で呼吸器内科を専門とする医師として、今回は長引く咳の代表的な原因である「咳喘息(せきぜんそく)」や「気管支喘息」について、風邪との見分け方や治療法を解説します。
その咳、本当に風邪ですか?「期間」で見分ける危険信号
風邪(ウイルス感染)による咳であれば、通常は発症からピークを迎え、2週間程度で自然に治まっていきます。
もし、あなたの咳が2週間以上続いている、あるいは3週間を超えて長引いている場合、それは単なる風邪の延長ではありません。
医学的には3週間以上続く咳を「遷延性(せんえんせい)咳嗽」、8週間以上を「慢性咳嗽」と呼び、別の原因を探る必要があります。
その中でも特に多い原因が、次に紹介する「咳喘息」です。
急増する現代病「咳喘息(せきぜんそく)」とは
「喘息(ぜんそく)」と聞くと、呼吸をするたびに「ヒューヒュー、ゼーゼー」と音がして、息苦しくなる発作をイメージする方が多いでしょう。
しかし、「咳喘息」には、そのような呼吸困難やゼーゼーする音(喘鳴)はありません。
気管支喘息と咳喘息の違いは何かというと、どちらも「気道粘膜で炎症が起こっている」ことは同じなのですが、炎症のせいで気管支が収縮して狭くなってしまっている状態にまで陥っているのを気管支喘息と言い、咳喘息は「気道粘膜に炎症は認めるものの呼吸機能は低下していない」状態を言います。
咳喘息の唯一の症状は「空咳(コンコンという乾いた咳)」が続くことです。
気道粘膜が炎症を起こしている状態は刺激に対して過敏になっており、少しの刺激でも咳の症状が起きてしまいます。
なぜ市販薬や抗生物質が効かないの?
患者さんからよく聞くのが「病院で風邪薬(抗生物質)をもらったが効かない」「市販の咳止めが効かない」という話です。
咳喘息の原因は「細菌感染」ではないため、抗生物質は効果がありません。
また、市販の咳止めは脳の咳中枢に働いて咳を抑えるものが多く、気道の炎症という「根本原因」を治すものではないため、効果が限定的なのです。
「大人の喘息」は突然発症する
「子供の頃は喘息じゃなかったから、自分は関係ない」と思っていませんか? 実は近年、大人になってから初めて発症する「成人喘息」が増えています。
実は、気管支喘息や咳喘息は「全年齢で発症しうる病気」なのです。
風邪をきっかけに発症することが多く、咳喘息を放置すると、約30%が本格的な「気管支喘息」へ移行すると言われています。
以下のチェックリストに当てはまる場合、注意が必要です。
【咳喘息・気管支喘息の可能性チェック】
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咳が2週間以上続いている
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夜寝る時や、明け方に咳がひどくなる
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寒暖差(暖かい部屋から寒い外に出た時など)で咳き込む
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会話や電話をしていると、喉がイガイガして咳が出る
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タバコの煙や線香、強い香水の匂いで咳が出る
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運動をすると咳き込んでしまう
咳を数値化する「呼気NO検査」で診断
「咳の診断なんて、聴診器を当てるだけじゃないの?」と思われるかもしれません。 しかし、咳喘息や初期の気管支喘息は、聴診器で胸の音を聞いただけでは異常が見つからないことがほとんどです。
そこで当院では、「呼気NO検査(呼気一酸化窒素濃度測定)」という専門的な検査を行います。 方法は非常に簡単で、機械に向かって一定の強さで息を「ふーっ」と吐き出し続けるだけです(約10秒間)。
この検査により、吐く息に含まれる一酸化窒素(NO)の濃度を測定します。気道にアレルギー性の炎症(好酸球性炎症と言います)があると、この数値が高くなります。
「目に見えない炎症」を数値化することで、的確な診断が可能になります。
治療の主役は「吸入薬」。早期治療で完治を目指す
咳喘息や気管支喘息と診断された場合、治療の主役は飲み薬ではなく「吸入ステロイド薬」です。
「ステロイド」と聞くと副作用を心配される方がいらっしゃいますが、吸入薬は患部(気管支)に直接作用するため、飲み薬や点滴に比べて全身への副作用は極めて少なく、安全性が高いお薬です。
炎症を起こして腫れ上がった気道の粘膜を、ステロイドの力で鎮静化させます。
また、気管支を広げる薬も併用します。適切な吸入治療を行えば、数日で嘘のように咳が楽になることも珍しくありません。 重要なのは、「咳が止まっても、自己判断で薬をやめないこと」です。
表面上の咳が止まっても、気道の奥の火種(炎症)は残っています。医師の指示通りに治療を続けることが、再発を防ぐ唯一の道です。
神戸で「咳が止まらない」とお悩みの方へ
「たかが咳」と思うかもしれませんが、長引く咳は体力を消耗させ、睡眠不足を招き、肋骨を骨折させてしまうことさえあります。
何より、会話や仕事に集中できないのは辛いものです。
当院は神戸の中心地で、呼吸器内科・アレルギー科の専門診療を行っています。
「風邪薬を飲んでも良くならない」「一度しっかり検査をしてほしい」という方は、ぜひご相談ください。
長引く咳の背後にある原因を突き止め、あなたに最適な治療法をご提案します。一日も早く、咳のない穏やかな日常を取り戻しましょう。
よくある質問(FAQ)
Q. 咳喘息は他人にうつりますか?
A. いいえ、うつりません。咳喘息はアレルギー性などの炎症が原因であり、ウイルスや細菌による感染症ではないため、家族や周囲の人に感染させる心配はありません。
Q. 昼間は咳が出ないのですが、受診してもいいですか?
A. もちろんです。咳喘息や気管支喘息は「夜間〜明け方」に症状が悪化するのが大きな特徴です。
昼間に症状が落ち着いていても、呼吸機能検査や呼気NO検査で診断が可能です。
Q. 治療期間はどれくらいかかりますか?
A. 個人差がありますが、咳喘息の場合、治療開始から数ヶ月程度、吸入薬を継続していただくことが一般的です。
症状が消失しても、炎症が完全に治まるまで治療を続けることが、気管支喘息への移行を防ぐポイントです。

