「夜、寝ている間に2回も3回もトイレに起きてしまう」 「トイレのせいで睡眠不足になり、昼間うとうとしてしまう」 「歳をとったから、膀胱が弱くなったのだろう」
加齢とともに増えるトイレの悩み。多くの方が「年のせい」や「前立腺や膀胱の問題」だと考えて、泌尿器科を受診されたり、あるいは「仕方ない」と諦めていたりするケースが非常に多く見られます。
しかし、泌尿器科で薬をもらっても症状が改善しない場合、その原因は「膀胱」ではなく、「睡眠中の呼吸」にあるかもしれません。 実は、夜間頻尿は睡眠時無呼吸症候群(SAS)の代表的なサインの一つなのです。
今回は、神戸元町呼吸器内科・アレルギー科クリニックが、意外と知られていない「トイレ」と「無呼吸」の深い関係と、そのメカニズムについて解説します。
1. そのトイレ、本当に「膀胱」のせいですか?
一般的に「夜間頻尿」とは、就寝中に排尿のために1回以上起きなければならない状態を指しますが、生活に支障が出るのは2回以上起きる場合が多いと言われています。
原因として、過活動膀胱や前立腺肥大症などが有名ですが、実は睡眠時無呼吸症候群(SAS)の患者様の約70%〜80%に夜間頻尿の症状が見られるというデータがあります。
「いびきをかく病気」と「トイレ」がなぜ関係あるの?と不思議に思われるかもしれませんが、これには心臓の働きとホルモンが深く関わっています。
2. なぜ、無呼吸になるとトイレに行きたくなるのか?(メカニズム)
睡眠時無呼吸症候群の患者様が夜中にトイレに起きる理由は、単に「目が覚めるからついでに行く」のではありません。「身体が尿を大量に作ってしまう」という生理現象が起きているのです。
そのメカニズムを分かりやすく解説しましょう。
① 呼吸停止による心臓への負担
SASの方は、寝ている間に何度も気道が塞がり、呼吸が止まります。すると、胸の中の圧力(胸腔内圧)が大きく変化し、心臓に大量の血液が無理やり戻ってくる状態になります。さらに、酸欠状態を補うために心臓は必死に働いて血液を送り出そうとします。
② 心臓からのSOS「利尿ホルモン」の分泌
パンパンに膨らんだ心臓は、「血液(水分)が多すぎて苦しい! 水分を外に出してくれ!」と勘違いを起こします。 この時、心臓から「心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)」というホルモンが分泌されます。
③ 夜間多尿の発生
このANPというホルモンには、その名の通り「尿を出させる(利尿)」強力な作用があります。 本来、寝ている間は抗利尿ホルモンが働いて尿の量が減るようにできていますが、SASの方はこのANPが邪魔をするため、寝ている間も昼間と同じように、あるいはそれ以上に腎臓が尿を作り続けてしまうのです。
つまり、SASによる夜間頻尿は、「心臓を守るために、体が強制的に水分を排出している緊急避難反応」と言えるのです。
3. 「泌尿器科」か「呼吸器内科」か? 見分け方のポイント
「自分の夜間頻尿が、膀胱のせいなのか、無呼吸のせいなのか分からない」という方は、以下のチェックリストを確認してみてください。
【睡眠時無呼吸症候群(SAS)が疑われる夜間頻尿の特徴】
- 昔から「いびき」をかく、または指摘されたことがある
- 昼間の眠気やだるさが強い
- 朝起きた時、喉が渇いている
- 体重が増えてからトイレの回数が増えた
- 血圧が高めで、薬を飲んでも下がりにくい(治療抵抗性高血圧)
- 1回に出る尿の量はそれなりに多い(ちょろちょろではなく、しっかり出る)
逆に、「尿の勢いが弱い」「排尿時に痛みがある」「日中も頻繁にトイレに行く(1日8回以上)」といった場合は、前立腺や膀胱の病気の可能性が高いため、泌尿器科の受診をお勧めします。 (※もちろん、SASと泌尿器疾患を合併しているケースも多々あります)
4. 夜中のトイレは「転倒」や「ヒートショック」のリスクも
「トイレくらい我慢すればいい」と軽く考えてはいけません。夜間頻尿には、睡眠不足以外にも重大なリスクが潜んでいます。
- 特にご高齢の方の場合、暗い中で寝ぼけ眼でトイレに立つことは、転倒による骨折の大きな原因となります。骨折がきっかけで寝たきりになってしまうケースも少なくありません。
- 冬場、暖かい布団から寒いトイレへの移動は、血圧の急激な変動を招きます。これは脳卒中や心筋梗塞を引き起こす「ヒートショック」の引き金となり、命に関わります。
夜間のトイレ回数を減らすことは、これらの事故を防ぎ、健康寿命を延ばすことにも直結するのです。
5. 治療(CPAP)で劇的に改善する可能性があります
もし、夜間頻尿の原因が睡眠時無呼吸症候群であれば、SASの治療を行うことでトイレの回数は劇的に減ります。
SASの標準治療であるCPAP(シーパップ)療法を行うと、睡眠中の気道が確保され、呼吸が止まらなくなります。すると、心臓への負担がなくなり、あの「利尿ホルモン(ANP)」が分泌されなくなります。
実際に当院でCPAP治療を開始された患者様からは、 「治療を始めたその日から、一度もトイレに起きずに朝まで眠れた!」 「毎晩3回起きていたのが、1回起きるか起きないかになった」 といった驚きと喜びの声を頻繁にいただきます。
泌尿器科の薬を飲んでも改善しなかった方が、呼吸の治療をした途端に治ったという事例は、私たち呼吸器内科医にとっては日常的な光景なのです。
まとめ:トイレの悩みも、まずは「睡眠」のチェックから
「夜トイレに起きるのは、歳だから仕方ない」と諦める前に、一度ご自身の睡眠状態を疑ってみてください。 その頻尿は、心臓が悲鳴を上げているサインかもしれません。
神戸元町呼吸器内科・アレルギー科クリニックでは、ご自宅で簡単にできる検査で、睡眠時無呼吸症候群かどうかの診断を行っています。 当院は、JR・阪神「元町駅」から徒歩すぐにあり、神戸・三宮エリアの皆様の「質の高い睡眠」と「健康」をサポートしています。
「もしかして無呼吸かも?」と思われた方は、お気軽にご相談ください。朝までぐっすり眠れる幸せを、一緒に取り戻しましょう。

