WHAT IS
慢性閉塞性肺疾患
(COPD)とは
COPD(Chronic Obstructive Pulmonary Disease; 慢性閉塞性肺疾患)は主にタバコの煙が原因で発症する肺疾患です。
「肺気腫」と言った方が分かりやすいかもしれません。
タバコの煙によって肺が壊されてしまい、穴だらけになってしまっている状態のことを「肺気腫」と言います。
厚生労働省の統計によれば、2021年のCOPDによる死亡者数は16,384人1、10万人あたり13.3人であり、2032年の死亡者数は10万人あたり11.5人と推定されています。
「健康日本21(第三次)」では、COPDによる死亡者数を減らし、この「10万人あたり11.5人」という人数を10まで減らすことを目標としています。
そのためには、疾患啓発や健康診断、早期の受診、早期の治療介入など様々な取り組みが必要と考えられています。
DETAILS ABOUT
COPD=慢性気管支炎+肺気腫
慢性閉塞性肺疾患(COPD)はなぜ起こるのでしょうか。
空気の通り道である気管は肺の奥に向っていく途中で枝分かれを繰り返し、気管支のその先にある「肺胞」という組織でガス交換(酸素を体のなかに取り込み、二酸化炭素を放出する)を行います。
しかし、タバコの煙に含まれる有害物質によって気管支が慢性的な炎症を起こしてしまうことで、「慢性気管支炎」の状態を起こしてしまうと、太い気管支では痰の量が増えますし、細い気管支は内腔が潰れやすくなってしまいます。
また、気管支のその先の肺胞の構造が破壊されてしまうと、その周囲の気管支を支えることが出来なくなり、息が吐き出せなくなってしまいます(気流閉塞)。
このように、慢性気管支炎と肺気腫が起こることで呼吸をすること自体が不利になっていく病気のことをCOPDと言います。
MECHANISM
COPDが起こるしくみ
COPDの発病の仕組みについて簡単に説明いたします。
COPD患者の90%に喫煙歴があると言われています。
タバコの煙が気道に侵入すると、炎症が引き起こされます。COPDの状態になってしまった人は、この炎症が慢性化し、仮に禁煙をしたとしても炎症が完全に消えることはなく、咳や痰などの症状が持続します。
タバコの煙に含まれる有害物質を除去するために白血球やマクロファージなど「ゴミ処理係」の細胞たちが気道上皮に集まり、これら細胞からケモカインやサイトカインといった炎症性メディエーターという物質が作られることで、肺の組織が破壊される方向に進んでいくのです。
破壊されてしまった肺の組織は後から禁煙をしたとしても元には戻りません。
このようにして気道が閉塞(空気の通り道が狭くなる)しやすくなり、息を吐くことが苦手になってゆきます。
そして進行すると息が吐けないだけでなく、吸うことも出来なくなってゆき、重症化すると低酸素状態となります。
SYMPTOMS
COPDの症状~息切れ~
COPD患者さんが訴える症状の一つに「息切れ(呼吸困難感)」があり、それは主症状であると同時にその患者さんが生きていく上での警告信号とも言えます。
呼吸困難感のために身体活動が制限され、それゆえに筋力が低下し、体全体がどんどん動かなくなっていく、負のスパイラルに陥ってしまいます。
したがって、この負のスパイラルの最初のきっかけである息切れ症状を制御することが、COPDの進行を抑えるために重要になっていきます。
息切れが生じた段階で、COPDのせいかも?と考えて医療機関を受診し、適切に診断されないといけません。
THE MAIN CAUSE
タバコはCOPDを引き起こす
一番の原因です
タバコの煙がCOPDの最大の危険因子であることは誰もが知っていることです。COPD患者の約90%には喫煙歴があり、COPDによる死亡率は、喫煙者は非喫煙者と比べて約10倍高いものです。
一度破壊されてしまった肺はもとには戻らないものの、禁煙は欠かすことのできない重要な治療戦略です。
これ以上COPDを進行させないこと、炎症を引き起こさせないことが重要なのです。なぜなら、気道には異物が入ってきた場合にそれを体外に排出する働きが備わっているからです。
気道分泌液(つまり痰)が異物をキャッチし、気道の表面に生えている線毛がベルトコンベアのように動く事でそれらを外に押し出していきます。
タバコの煙など有害物質が気道上皮を刺激することにより、分泌物を作り出す細胞が必要以上に多く作られてしまい、痰など粘液の分泌物が過剰に産生されてしまいます。
またタバコの煙などに曝され続けると、線毛が壊れていきます。
このように多くのCOPDでは痰が増え、加えて線毛が破壊された事により異物や痰が気管支に留まってしまいます。これらを排出しようとして痰の絡んだ咳が出続けます。
常にゲホゲホと咳をしている人の中にはCOPDの患者さんが含まれる可能性が高いと考えられるのは、そのためです。
加熱式タバコは吸っても良いの?
紙たばこによる健康被害は周知の事実となり喫煙率は減少傾向にあるものの、「健康被害が少ないタバコへのシフト」として電子タバコや加熱式タバコが世界的に使用されるようになってきました。
加熱式タバコは、プロピレングリコールやグリセロールを主な成分とした液体を加熱し、エアロゾル化させて吸入する製品です。
従来のタバコよりも安全な製品であるという見解があり、特に若い人への喫煙習慣の入り口となりました。
しかし、加熱式タバコの安全性については疑問が残ります。
IQOSのエアロゾルを気道上皮の細胞に曝露させたところ、紙タバコの煙から抽出した液体を曝露させたときと同様の炎症性サイトカイン(炎症の物質)が作られることが、基礎研究として報告されています。
まだ加熱式タバコが発売されてからの日が浅いため、COPDの発症に関する科学的根拠は蓄積されていないのが現状ですが、2025年2月6日に、初めて、紙タバコの喫煙歴がない人でも電子タバコを利用することでCOPDの発症リスクが50%増加したことを報告する研究が発表されました。
Chunyan Song et al,Respir Med. 2025.Feb 6:239
今後、加熱式タバコや電子タバコが近い将来問題となることが懸念されており、未然に防ぐ必要があります。
- 「紙巻きタバコより安全」という誤解を是正し、COPDリスクの認知を高める。
- 学校や職場での教育を強化し、未成年者への電子タバコの販売規制を厳格化する。
- 電子タバコを「禁煙補助」として使用するのではなく、完全にタバコ製品から離れることを目標とする、禁煙・卒園煙プログラムを充実させる必要がある
このようなことが、今後求められてくるでしょう。決して、「加熱式たばこは健康被害を減らす」とは思わないようにしてください。
DIAGNOSIS
COPDの診断
ガイドラインによるとCOPDの診断には下記の項目を満たすことが必要とされています。
- 長期の喫煙歴などの暴露因子があること
- 気管支拡張薬吸入後のスパイロメトリーでFEV1/FVC<70%であること
- 他の気流閉塞を来たしうる疾患を除外すること
つまり、「長期間の喫煙歴があり、気道を拡げる吸入薬を吸入しても、呼吸機能検査で1秒間あたりの吐く力が予測値の70%未満となっていること、COPD以外の疾患が除外されていること」となります。
COPD以外の疾患(肺がん、肺炎、結核、気胸など)を除外するために、胸部レントゲンや場合によっては胸部CTを行います。